WAZAGUギャラリーにて陶芸家の中野亘氏による個展「中野亘陶展 ~音をかたちに カタチを音に~」を開催中です。
「音をかたちに カタチを音に」をテーマに作品づくり、空間づくりに取り組まれている中野さんの作品世界をもっと知っていただくために、ギャラリートーク「土笛の話と演奏」を開催しました。
20人以上の方が参加し、興味深いお話と素敵な土笛の演奏を堪能していただきました。ここではお話の一部をご紹介します。
●土笛とは
最も古くからある楽器は石笛で、縄文時代には土器でできた土笛が作られるようになりました。南米の発掘品に似て動物のような形をしています。直接的な甲高い音です。
弥生時代の土笛は稲作と共に伝わってきました。丸い形で幾つかの穴が空いているので、音階のある「楽器」のように思われるかもしれませんが、普通の意味での楽器ではないと思います。土笛は弥生時代で途絶えてしまい、今伝わっているものはすべて発掘されたものです。
●土笛の力
当時そのままの音を奏でる土笛は、古代の音を実体験するための最高の道具だと思います。現代の人は音楽を時間軸にそって考えがちですが、当時の人々は音楽を空間的にとらえていたのではないでしょうか。
というのは、古代人にとっては音は「捧げる」ものだったからです。土笛は祈りの場で用いられていましたが、私はこれを「響きを置く」というふうに表現しています。
モノにはそこにあるだけで空間と共鳴する「響き」があります。土には土の分身としての響きがあるのと同じように、人にもその人そのものであるような響きがあります。人には他の人や場所と合う合わないがありますが、それが響き合いということです。古代人にとっては土笛の響きで空間と共鳴することは、土の分身をその場に置き「捧げる」ことだったのではないでしょうか。その響き合いの空間に身を置くことが、古代の人々が共同体の実感を持つよすがになっていたのではないでしょうか。
●響きから広がるテーマ
私は音楽家ではありませんが、そうした響きを体験してもらいたいと思っています。響き合う空間のなかで、自分の響きとは何だろうか、また、社会の中で息ができているかということを考えてもらいたいのです。
私は土笛と出会ったとき、「土の音」がするのに感動しました。しかし最初土笛を吹いてみて思ったことは、なんて苦しいんだろうということでした。その後、自然な呼吸を心がけると音は土の中にあるということに気付いたのです。
土笛から出発して、陶芸も同じように響きが大切だと気付きました。音を置くと言いましたが、器もそうです。その場所に置くことで器が響き合う。その空間の中でどんな人が来て、響きあうのだろうかと。
それ以来、私にとって空間作りをがテーマになりました。響きを共有する空間を作りたいのです。
また、呼吸ということですが、器も呼吸しているのです。発砲スチロールの容器で食べてもおいしくないのは、それが呼吸していないからなのです。なぜ器を作るのかというと、美味しく食べてもらいたいからです。呼吸している器で食べるのが一番おいしいのです。
子供たちのために、ぜひとも呼吸するもので食べさせ、育てて欲しいと思います。私も子供たち、障害のある子たちと土遊びをしたり、土笛を焼いたりもしていますが、こうした活動をもう一つのライフワークにしていきたいと思っています。
◆中野亘陶展 ~音をかたちに カタチを音に~
6月1日(月) まで 10:00―18:00(最終日のみ15:00まで)